白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

第一殿下の興味(クレイグ殿下視点)

クレイグ殿下の後宮____。

いつものように、ナティ・スウェル子爵令嬢が遊びに来ていた。
薄いピンクの巻いた髪をなびかせて、可愛らしいふわりと広がりをみせるドレス。
そのドレスを見て、また同じドレスかと、内心思いながら彼女といつものようにお茶をしていた。

「殿下……最近、お父様が忙しくて大変ですの。アクスウィス公爵家からの援助がなくなったせいですわ」
「そう……それは、困ったね」

お願いするように上目遣いで見てくるナティに、片肘をついてニコリとした。

アクスウィス公爵家からの援助は、フィルベルドが切ってしまい、資金繰りに忙しいのだろう。

スウェル子爵家が援助で贅沢をしていることは知っていた。その上、ナティがディアナの仕送りも自分自身のお洒落のために使っていたことも知っていた。
その金で、高級なドレスを準備していたのだろうけど……もう、用意できる金がないとわかる。


ナティがフィルベルドの妻であるディアナの金を着服していたら、フィルベルドが何かコンタクトを取って来るかもしれないと考えていた。
それは、フィルベルドのいる場所を特定できるかも……と期待していたことだった。

この6年、アスランの居場所もつかめず、フィルベルドがいる場所に必ずアスランいると考えてのことだったが、フィルベルドの居場所さえつかめなかった。
だが、フィルベルドはディアナどころかアクスウィス公爵家にも居場所を伝えなかった。

あんな格下の令嬢と結婚する意味が分からず、もし本当にディアナを愛しているなら、ナティがディアナの金を着服していることをすぐに気付くのではないだろうか……と考えたがディアナに接触してくることはなく、フィルベルドは影すら現わさなかった。

そのディアナは、夜会にも顔を出さないから接触する機会さえなく、フィルベルドとは白い結婚だと噂通りかと思っていた。
仕方なく、ディアナには期待することを諦めて放置していたが……帰国してからのフィルベルドは、ディアナに夢中になっていた。それに、少し興味が沸いた。
どんな令嬢も落とせなかったフィルベルドが、たった一人の令嬢に熱を帯びた表情を向けるとは今まででは考えられないことだった。

「……ナティ。ディアナはどんな令嬢だい?」
「ディアナですか……最近は、ずっと会ってませんけど、昔は不気味な娘と呼ばれていましたよ。皆に見えないものが見えたりして……思い込みの激しい娘でしたけど……」
「それは、ずっとかい?」
「一時ですわ。子供なら、幼い頃は見えない友達を作ることも不思議ではない、ということで、それに似たものだと言われていましたから……しばらくすればディアナも言わなくなりましたわ。昔から、友人もいない娘ですから、きっと相手にして欲しかったのですわ」

空想の友達、イマジナリーフレンドのようなものではない。
間違いなくディアナは見えていた。

言わなくなったのは、言う友達がいないからか、もしくは変な目で見られることを嫌ったか……。

「殿下……そろそろお部屋に……」

隣に席を移したナティが、そっと腕に手を伸ばしてくる。

「残念……今日は、用があるんだ。ナティ。もう帰ってくれるかい?」
「で、でも、まだ……」
「私は、忙しいんだよ」

そう言って、ニコリとする。ナティは、おこずかいでも欲しがっているのだろう。
後宮では、一時的でも殿下の相手をした日は、その令嬢に褒美を与えることに決まっているから。
そして、フィルベルドに変わる援助を求めている。

「次は、いつお呼びになってくださいますの?」
「私は、気分屋だからね……女性に縛られるのは大嫌いなんだ。それに、私の宮に来るのに、いつも同じドレスは困るし、安物のドレスも困るんだよ」

ニコリとそう言うと、ナティの顔が青ざめる。いくら鈍いナティでも、私の眼が笑っていないことぐらいはわかるらしい。
そして、青ざめたままナティは茶会から去った。




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