白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

夫は謹慎を要望する

ルトガー様が連れて来た第二騎士団が整列すると、その間を陛下と王妃様がやって来た。

流石に、陛下の前では座り込んだままいられず、フィルベルド様も立ち上がったけど私を抱きかかえたままだった。

やって来た陛下は、憤怒の表情で周りの空気が張りつめた。
そして、陛下はクレイグ殿下を見るなり、いきなり拳を振り下ろした。

「この馬鹿者!! よくもアスランに!! アスランに何かあればどうする気だ!!」

殴られたままの顔は下を向いており、クレイグ殿下の長い前髪が彼の表情を隠していた。
彼は、どんなに殴られてもいつもの通り飄々とするのだろう。
その様子に胸が痛くなる。

クレイグ殿下は、涙一つ流さずにこの状況も軽くかわしていくのだろうと思うと、それが悲しい。

「陛下。私を殴ろうが、アスランが呪われようが予言は変わりませんよ」

予想通りのいつもの表情でクレイグ殿下は、そう言って口角から流れた血を舐めた。

「なんだと……っ……この恥さらしが……!」

それに、陛下は益々怒りが沸いている。
周りは、陛下のすることに口を出せず止める人はいない。
その間も、陛下はクレイグ殿下へと容赦なく拳を振り下ろしている。
見ていて凄く嫌な気分になる。陛下にはクレイグ殿下への愛情を感じなかったのだ。
それが心を痛める。

「……っクレイグ殿下!」

思わず、フィルベルド様の腕から下りて陛下を止めようとすると、フィルベルド様に制止された。
彼を見上げると、陛下とクレイグ殿下を一点に見据えている。

「……陛下。それ以上はお止めください」
「フィルベルド。お前が止めるのか?」
「妻が怯えてしまいます。どうか怒りをお鎮めください」

フィルベルド様が、私が止めようとしたことを察したように代わりに言ってくれる。
私がいきなり陛下を止めようするよりも、フィルベルド様が止めるほうがずっと効果的で、陛下の手が止まり、深呼吸をして怒りを収めようとしている。

「陛下。フィルベルドの言う通りです。奥方を怯えさせるものではありませんわ。被害者の彼女が止めるなら、ここは抑えるべきです……クレイグのこともこれ以上は……どうか……」

王妃様が、悲しげにそう言う。
クレイグ殿下は、そんな二人を視界に入れたくないように顔をそらしている。

「フィルベルド。クレイグを牢に連れて行け」
「……お断りします」

陛下がそう指示したところで、フィルベルド様がキッパリと断ると、思わず驚いてしまう。
クレイグ殿下も、驚き眼を見開いてこちらを見た。

「あの……フィルベルド様?」
「陛下。私は、謹慎中です。クレイグ殿下を連行することはできかねます」
「フィルベルド。この場合、謹慎は関係ないだろう。さっさと牢に連れて行け!」
「しかし、今は妻を休ませたいので、このまま謹慎でお願いします。謹慎も陛下がお認めになったものですから、素直にお受けします」
「謹慎は終わりだ! いいから連れて行け!」
「謹慎のままで結構です。妻と気兼ねなくいられますから」

キリッとした表情で、陛下に反論するフィルベルド様に、一体何を言っているんだろうと目が点になってしまう。

「フィ、フィルベルド様……せっかく謹慎が解けそうな様子ですので、お仕事に……」
「何を言う。今、ディアナを置いて仕事になど行けるわけがない」

その気持ちは嬉しいけど、陛下の指示に反抗しては不味いのでは?

「陛下。兄上は、私がお連れします」

そう困っていると、また騎士たちが整列して、アスラン殿下がそう言いながら現れた。
アスラン殿下の顔色は悪い。それでも、この騒ぎに部屋で休んでいることが出来なかったのだろう。

「兄上は塔に幽閉します。よろしいですね?」
「クレイグは牢だ。アスランを呪い殺そうとした」
「陛下。私が死ぬことはありません。ですから、兄上が牢に入ることはありません」

今度は、アスラン殿下が陛下に反論している。

「クレイグは、フィルベルドの妻も誘拐し監禁した。罪を見逃すわけにはいかん」
「……それでも、牢には入れません。兄上は塔に幽閉します」

陛下は、実直過ぎる。それは、この国の王は幼い頃から騎士になるために訓練を重ねてきたからだろうか。
そのせいか、同じ騎士の訓練をこなして来たアスラン殿下には、明らかにクレイグ殿下に対する雰囲気が違う。

……騎士になれなかった王子。
クレイグ殿下が、そう言ったことを思い出した。

彼を見ると目が合い、やっとわかった? とでも言うように、自嘲気味にクスリと笑う。

陛下は、騎士になれなかったクレイグ殿下が嫌いなのだ。理由はわからないけど、騎士になれなかったクレイグ殿下を恥とさえ思っている。
いや、それ以上に陛下にとっては、アスラン殿下さえいればいいのだ。

そのアスラン殿下は、顔色が悪いまま今にも膝から崩れそうだ。

「フィルベルド様……どうかアスラン殿下と行ってください。私のことはお気になさらずに……」
「一人にさせるつもりはない」
「大丈夫です……私は、ずっと待ってますから……フィルベルド様の妻ですからね」
「ディアナ……そうか……では、可愛い妻のために、急ぎ仕事を片付けよう……」

恥ずかしながらそう言うと、フィルベルド様は引き締まった、それでいて素敵な笑顔で顔を近づけて来る。
この険悪な現場の中で、フィルベルド様は、周りを気にもせずに、こめかみに優しいキスをする。
私が恥ずかしがっていることさえ、可愛いと満足気だった。

そして、クレイグ殿下はそのまま城の塔に幽閉されることになった。







< 54 / 73 >

この作品をシェア

pagetop