秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 平静を装ってはいるけれど、清香もさきほどからハラハラしっぱなしだ。
(とりあえず、昴さんが素直に怒ってくれてよかった!)
 昴に『この場では自分の子ということにしておこう』なんて、大人な対応をされたら計画は台無し。それに、プライドが邪魔したのか、彼が志弦の名を口にしないのも助かった。

「――誰の子どもなのよ?」
 汚らわしいものを見る目で、涼花がにらみつけてくる。清香はしれっと答える。
「昴さんでないのはたしかなのですが……仲良くしている男性はたくさんいるので、誰とは……」
 できるだけ馬鹿っぽく、軽薄な女に見えるように心がけたつもりだ。
 どうやら成功したらしい。さきほどまで妊娠を喜んでくれていた年長の男性が、顔を赤くして唾を飛ばす。
「こ、こんなふしだらな女は大河内家の嫁とは認められんぞ!」
「当たり前です! この縁談は破談、進めていたクラシックカーの店の支援も打ち切らせていただきますからね」
「えぇ……そんな……」
 琢磨は顔面蒼白で口をパクパクさせるばかり。

「ど、どういうことなの。昴さんの子だって、清香ちゃんも認めていたでしょう」
「父親が昴さんとは、私は一度も言ってないわ」
「そんなっ」
 奈津は立ちあがり、すがるように清香の両肩をつかむ。
「父親のわからない赤ん坊を妊娠するとは……そんな恥知らずの娘に育てた覚えはないぞ!」
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