秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 簡単な経歴の紹介や挙式スケジュールの相談などを、双方の両親が中心になって話し合う。昴も清香も、まるで他人事のように聞き流すだけだった。
 ふと気がついたときには、もうテーブルにコースの締めの甘味が出されていた。
 奈津が清香を肘でつつく。
「ほら、清香」
 妊娠を発表するタイミングだと言いたいのだろう。清香は椅子から立ち、居並ぶ大河内家の面々を見据えた。

 すぅと大きく息を吸う。
「みなさまにお伝えしたいことがあります」
 ずっと退屈そうにしていた昴も、顔をあげて清香を見る。
「実は私、妊娠しています」
 場にざわめきが走る。驚きに顔を見合わせていた彼らのうちで、一番年長らしい恰幅のいい男性が代表して口を開く。
「お、おぉ。いやまぁ、ちょっと早いが、跡継ぎの誕生は早いほうがいい。でかしたな、昴!」
 厳めしい顔つきだが、意外といい人なのかもしれない。彼は場を盛りあげようと明るい笑い声をあげる。

 清香はちらりと昴を見た。苦虫をかみつぶしたような顔をしている。わななく唇から感情のままに言葉が飛び出る。
「妊娠って……俺の子どものはずがないだろう?」
 凍りついたのは、清香の両親と……涼花だった。
「ちょっと、昴の子じゃないってどういうことなのか説明してくださいな」
 涼花の甲高いわめき声に、部屋がシンと静まり返る。
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