秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「構いませんが、その場合は大河内と付き合いのあるすべての方々に榛名画廊との取引はやめるよう進言することになるでしょうね。そうそう、清香さんの職場で来年に計画している企画展、そのスポンサーに大河内が名を連ねているのはご存知でしたか?」
 断れば、画廊だけでなく職場の美術館にも迷惑をかけることになるぞ。そういう脅しだろう。

(お父さんもこの人も、どうしたらこんなに根性が捻じ曲がるのかしら!)
 らしくもなく清香は憤慨する。が、彼女のほうはどこまでも冷淡だ。
「決めるのは清香さんです。お好きなように」
 そう言い残して、ぷつりと電話は切れた。

 ツーツーと冷たい音を響かせているスマホを思わず床に叩きつけそうになったけれど、すんでのところでこらえる。長く愛用しているスマホにはなんの罪もない。

 駒子が勝手に指定してきた十一月一日。仕事帰りの夜七時。
 茉莉には大反対されたが、結局、清香はボストンバッグを片手に赤坂の大河内本家を訪れていた。門前でインターホンを押すと藍色の着物姿の女性が現れた。

「お電話を差しあげた白井駒子です。大河内家へようこそ、清香さん」
 にこりともせずに彼女は言う。五十代くらいだろうか。こうして対面しても彼女のパーソナリティはさっぱりわからない。アンドロイドがプログラムどおりにしゃべっている、そんな印象だった。彼女の案内で、大河内家の敷地に清香は足を踏み入れた。
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