秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 甘いものは大好物だが、今はそれを楽しめる心境にない。彼はしつこくすすめることはせず、オーダーを取りに来た店員にレモンティーとホットコーヒーを頼んだ。
 飲み物がテーブルに運ばれてきて、清香が口をつけたタイミングで、彼はようやく話し出す。
「俺の名は大河内志弦(しづる)。君の見合い合相手の昴の、三つ年上の兄だ」
「……昴さんのお兄さん」
 想像もしていなかった状況で、理解にやや時間を要した。

 つまり、清香がずっと片思いをしていて、つい先日、一日だけと頼み込んでデートをしてもらった相手は、清香の義兄になるかもしれない人だったのだ。
 運命のいたずら……にしたって、ひどすぎる。目まいがして視界が揺れる。
 カップを握る指先が震えて、思わず落としそうになった。ソーサーとカップがぶつかりガチャンと不快な音を立てる。

「し、失礼しました」
 清香は身をすくめるようにして頭をさげた。
「大丈夫か――」
 彼は心配そうに清香に手を差し伸べようとしたが、そこではっとしたように指先を折る。その顔に浮かぶのは、困惑と……軽蔑。

 少しずつだが、事態がのみ込めてきた。彼の険しい表情も理解できる。
(見合い前に男性と関係を持つような、だらしのない女が義妹になるなんて、嫌がられて当然だわ)
 どう考えても、大河内家にふさわしいとは思われないだろう。
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