あなたを愛しても良いですか。
不穏な空気

展示会二日目。

今日は朝から雑誌の取材やテレビ撮影があり、真一も私もマスコミ対応に忙しくしていた。
真一は初日から着物を着ていたが、今日は私も和服で会場に来ていた。

私は幼い頃から、着物には慣れ親しんでいる。
実家の三条家では着物を着て出かける事も、よくあることだったのだ。
着物を着て、帯を締めると背筋が伸びて気持ちも引き締まる。
華道の展示会のため、花の邪魔にならないように着物は色無地にした。
あくまでも家元夫人として、前に出過ぎないよう気を遣う。

真一と私が結婚してから二人そろって着物姿は初めてだった。
カメラマン達は真一と私のツーショットを狙い写真を撮っていた。
私達が移動すると一緒にマスコミの方々が追いかけている。
けっこうな人だかりが出来てしまうのだ。

しかし、会場を見渡すと、私達の周り以外にも人だかりができているところがあった。

悠太の周りにも沢山の人が集まっているのだ。
中には、悠太の和装姿を目当てに、写真を撮るためだけに来場する女性もいるようだ。

悠太も真一同様に長身で、和装が良く似合っている。
むしろ、精悍な顔立ちの悠太は、真一よりも和装が似合っているようにも感じる。
流石、華道界のプリンスと呼ばれる兄弟だ。


そんな中、会場が急にざわつき始めた。
皆が一斉に同じ方向を見つめている。

その先にいたのは、城ケ崎流に並ぶ由緒ある華道の家元で、華道界のドンと言われる男が入って来たのだ。

星月流家元、榎谷 総一郎(えのきだに そういちろう)だった。
年齢は60歳を過ぎているが、その活動は多岐に渡っている。
実業家としても成功していると言われていた。
最近では音楽に合わせて花を生けるパフォーマンスなどでも話題を集める人物だ。

当然、マスコミ陣も榎谷の登場に沸いていた。

榎谷は会場をゆっくりと一周すると、マスコミの取材の質問を受け付けた。

「城ケ崎流の展示会をご覧になって、率直なご意見をお願いします。」

記者の一人が、榎谷にマイクを向けている。
記者達はその周りに集まり、そのコメントを聞き洩らさぬように静まり、耳を澄ましている。

榎谷はマイクに向かって話しを始めた。

「あくまでも、私個人の意見ではあるが…城ケ崎流はすでに二つに割れているようじゃなぁ。」


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