ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハカタ

ガールズバー、テクニック!


 僕はどうしても、キャバクラに行ってみたくて、仕方なかった。
 何だったら、ピンクの接待をする店も見てみたい。見るだけ。
 一度でいいから。
 この目に焼きつけておきたい。
 言わば、取材だ。

 もちろん、奥さんにも許可を取った。
 渋々だが首を縦に振ってくれた。
「一回見ないと気が済まないでしょ」と。

 それを犬ヶ崎さんに連日、相談していた。
 彼は僕の話を聞いて、驚いていた。
「えぇ!? 奥さんにそんなことを言ったんすか!?」
「はい。言いましたよ。フツーに」
「俺なら出来ない! 味噌村さんってすごいっすね!」
「え、別に普通のことじゃないですか?」
「全然、普通じゃないっす! 俺なら嫁さんに言えないっすよ!」
「僕はあくまでも、取材として行きたいんです。その世界を見たいだけなんで」
「ああ、そうですか……でも奥さんの許可を得て行くとなると、ハードル高いっすね……」
 彼は真剣に考えてくれた。

 しばらくして。
「味噌村さん、俺いいこと考えたっすよ」
「ん、なにかあります? 僕の妻を不快にしないようなお店」
「ガールズバーがいいと思うんす!」
「なんですか、それ」
 彼が言うには、狭い個室で、三人ぐらいのお姉さんがカウンター越しに立っていて。(多分バニーガールとか)
 触れることがないから「奥さんが嫌がることもないのでは?」と提案してくれた。


「へぇ、そんなのがあるんですねぇ」
「でも正直、おもしろくないっすよ!」
「え、なんでです?」
「だって、三人ぐらいの女の子を取り合いになるから、つまんねぇっす!」
「なるほど……」
 この間も僕はしっかりスマホにメモを取る。

 近くにいた所長の天拝山さんが、話に加わってくる。

「なになに、味噌村さんってキャバクラ行きたいの?」
「はい。奥さんに許可を得てからですけどね」
「あー、そういうことね。味噌村さんは経験がないからだよね。やましい気持ちなんてないんだよね。ピュアだもんな」
「そうっす! 僕も一回でいいから見たいだけなんです」

 話は変わり、天拝山さんの武勇伝が始まる。
「でも、あれだよね。ガールズバーって楽しくないよね?」
 犬ヶ崎さんがニヤニヤしながら、頷く。
「楽しくないっす……キャバクラの方がいいっすよ!」
「俺なんかさ。18才になったら、1万円札片手に、中洲で遊びまくったよ。もう全部の店行けたんじゃないかな?」
 犬ヶ崎さんは、語りはしないものの、「わかるわかる」と頷く。
 二人して、ニヤつくその姿は、童貞を卒業したリア充のようだ。

 なんだか見ていて悔しい。
 遅れをとるまいと、僕も必死に食らいつく。
「犬ヶ崎さん、そんなにキャバクラって楽しいんですか?」
「めっちゃ! 楽しいっすよ!」
「あれですか。お触りとかされるんですか?」
「それはないっす……けど、この距離っすよ!」
 そう言うと、彼は座っていたビジネスチェアを転がし、自身の膝を僕の右足にくっつける。
 キラキラ輝く目で、嬉しそうに語りだす。
「どうですか? この距離間! ミニスカのお姉さんの生足がくっついて、一対一でお喋りできるんすよ! 超楽しいっすよ!」
「へぇ……」

 ここで、僕は彼らにも一つの提案を出した。

「あの、この作業所のみんなでキャバクラに行きませんか?」
 すると……。
「「……」」

 僕の声が小さすぎて、二人に聞こえなかったのかと思い、また声をかける。
「みんなで中洲に行きませんか? 女性の利用者さん達も。それこそ、熟田さんもご一緒に」
「「……」」

 二人とも黙って俯いてしまった。
 先ほどまでのテンションはどこへら。


 帰宅して妻に相談すると。
「だから、あれだよ。他の女性なんて連れて行ったら遊べないじゃん。味噌くんみたいに純粋な気持ちじゃ、嫌なんだよ」
「そうかな?」
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