ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハカタ

キャバクラ、テクニック!


 通所して二週間ほど経ったか。
 僕はすごく疲れていた。
 20年ぶりの社会復帰に。

 タイピングで肩がぶっ壊れて、所長の天拝山さんに
「味噌村さん、ちょっと真面目過ぎです。このままじゃ、倒れる」
「しばらく休みなさい! これも仕事です」
 そうきつく注意されて、僕は執筆活動を封印した。

 すると、やることがない。
 天拝山さん曰く、まだ開所して間もない。
 一か月は仕事もないし、
「ゆったりとしてればいい」
 と言われた。

 ゲームしたり、他の利用者さんと雑談したり、色々と勉強になった。

 この作業所は、かなり画期的で、どうやらメイド喫茶と連携しているらしい。
 斑済さんがいうには、
「あなたたち、利用者さんがメイドさんの似顔絵を描いて、バッジにする」
「ガチオタが推しのメイドが出るまで、下手したら1万ぐらいガチャしてくれるよ」
 なんて説明された。

 だが、福岡にはまだ肝心のメイド喫茶が開店されていない。
 いずれ、出来ると言われたが……。

 そこで一つ疑問があった。
 僕はメイド喫茶というものに、あまりいい記憶がない。
 過去に何件か回ったが、テレビやアニメでみる。
「おいしくなぁれ!」的な行為は、風営法で接待にあたるから、キャバクラにみたいになっちゃうと。
 だから、すごく塩対応ばかりされた。

 そこで、斑済さんに尋ねると。
「うちは違うよ。ちゃんと、そういうこともするからね」
「じゃあチェキとかのサービスもしてくれるんですか?」
「まあグレーだけど、やるよ」
「なら期待っす!」
「うん。期待しておいて。でも、あれだよ。この前さ、僕、中洲を歩いてたけど、メイドさんが立ってたんだけどねぇ」
「はぁ」
「でもさ、入ったらキャバクラだったんだよ。お店のお姉ちゃんに聞いたら違うって言ってたけど、ありゃ間違いなくキャバクラだよ」
「へぇ」
「座って接待したらキャバクラだからね」
「勉強になります」
 僕は必死にスマホでメモしていた。

 流れで聞いてみる。
「あ、あの……斑済さんって中洲とか詳しいんですか?」
「僕? まあ人並みにね」
「な、なら……今度、僕を中洲に連れて行ってくれませんか!?」

 中洲という街は、一概には言えないが、まあピンクな店やお水系が多い街だ。
 僕は正直、そういうのは嫌いだったけど、親父が中洲は楽しいと豪語するので、どうしても一回見てみたかった。

「いいけど。なんでさ?」
「僕……キャバクラに行ったことないんです! だから、この作業所のみんなで行きましょうよ!」
「え?」
「ただ、男性だけで行くのは不平等だと思うんです。スタッフも利用者さんも男女分け隔てなく全員で行きましょう!」
「……」
 黙り込む斑済さん。
「あの、斑済さん?」
「ふー」
 それ以降、話を聞いてくれなかった。

 帰って奥さんにそれを相談すると……。
「味噌くんは興味本位でしょ。だからだよ。男女みんなで行ったら、女の子と遊べないからじゃない」
「ええ、みんなで行った方が楽しいと思うけどなぁ」
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