だめんずばんざい






「小学生の頃には僕でも気づいたんで…その時は母さんは薫にだけ厳しいという感じに思ってたんです。同じようにうまく出来たことも櫂と僕だけ誉められたりするから、櫂と僕が薫を何倍も誉めるし、いつも僕たちが薫を守るように薫の左右の手を繋いで歩くんです。父さんは薫を一番に誉めたり抱き上げるので、僕はそれを見るのが好きだった」

奏太くんはゆっくりと昔を振り返るような口調で話始めた。

「なんで厳しいんだろうって…櫂と二人で考えたことが何度かあって…母さんと薫が違いすぎるのは確かだと思うんです。薫はゴロゴロする時間が必要なタイプで母さんはそれをだらしないと言う。薫は気分で予定が変わるタイプで母さんは予定通り物事を進めたいタイプ。だから母さんはイラついて薫を攻撃する。でも僕たちから見て、薫はゴロゴロしていても寝るまでに宿題はするし忘れ物もしない。寝転んだままでも試験勉強の暗記物なんかはできるんです。予定が変わるといってもよその人に迷惑が掛かるようなことではないんです。でも母さんからすれば、それはだらしない子で‘どうして私のようにきちんと出来ないの?’とイラつく。そしてだらしない子なのに皆から可愛がられるから、鬱陶しく感じる存在になる…そんな感じでここまで来たのだと思います」

彼は手元にあった冷めたお茶を一口飲むと

「料理だって、母さんは薫に‘危ないからあっち行って’としか言わなかったと思う…母さんは薫にゆっくり何かを教えることは無理です。最初はうまく出来なくて当たり前なのにイライラするだろうから」

そう言い右手で頭を掻いた。

「奏太くん、小さな頃からカオルちゃんを守ってくれてありがとう。カオルちゃんも奏太くんと櫂くんのこと大好きだよ」
「うん…それを僕たちがお互いに隠さないから母さんは余計にイライラする。わかっているけど、それは僕たちのささやかな抵抗でもあるからこれからも隠さない」

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