だめんずばんざい






「とうちゃ~く」

高速とは反対に向けて走って到着したパン屋さんで車のエンジンを切ると

「…カオルちゃん」

ガクトが窓の外を見たまま、手探りで私の手を探し当てぎゅっと強く握る。

「お母さん…どうしてだと思う?カオルちゃんに聞くのは違うと思うけど…カオルちゃんに聞くしかない…ごめん…」

微かに震えるような‘ごめん’を聞いて私は小さく息を吐いた。

「この年になるまでに何度か分析した結果と周りにちょこちょこ聞いたことから考えるとね…3人4人かそれ以上の子どもがいる人の中には‘この子とは合わない’という一人がいることは珍しくないみたいだよ。‘この子が何やってもイライラする’とかね…もちろん子どもが1人でも2人でも可能性はあるよね?人間同士だもの…お母さんはきっちりしている人だから、寝転がって宿題をするような私が理解出来なかったのかな…?あとは、一般的には父親が息子より娘を可愛がるって傾向があるようなんだけど、お父さんがお母さんより私を優先するのも気に入らなかったんじゃないかな。お父さんとお母さんは昔も今も基本的に仲良くやってるのよ。でも…私がいると、お父さんもお兄ちゃんも奏太までもが私を最優先するってことが年々起こるわけ…奏太なんて弟なのにね…お母さんの空気を読んで私を優先するのよ?可愛いでしょ?それがお母さんには気に入らない。ガクトの質問の答えになるかどうかはわからないけど…お母さんの気持ちはこういう感じだと思う。でもね、お父さんも言ってたけど…私の周りは本当にみんな優しいし仲良くしてくれるの。だから気にしないで…今日ガクトの言ってくれたことはとても嬉しかったよ、ありがとう」

私が言い終わると彼は

「よし、この話は終わり。カオルちゃん、話してくれてありがと。好きなだけパン、買ってあげる」

と私の額にチュッとキスをした。

「飲み物もお願いしまーす」
「いいよ。まず抹茶ドーナツは今すぐ食べようね」

ガクトは小さく微笑み、いつものように小首を傾げた。

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