だめんずばんざい





「あっ、ほんと美味しいね…ほろ苦さが…うん、いいわ」
「でしょ?美味しいコーヒーと合うけど…ガクト、牛乳片手に…ふふっ、写真撮りたい」
「写真はお断りしております…って、ははっ…この梅雨が明けたらいっぱいデートして、牛乳を持っていない時に一緒に写真もいっぱい撮ろうね、カオルちゃん」
「うん」
「今朝よりも…ずっと好きだよ」

ガクトはそう言いながら、ずーーっーーーと牛乳のストローを震わせた。

「やっぱりまた降りそうだから運転やめておく」
「ん、じゃあシート一番後ろまで下げて」
「むぅぅぅ…むむむむっ…私はやらない」
「拗ねても可愛いね」
「ドーナツが喉に詰まっただけだもん」
「言い訳もさらに可愛い」
「あんパンも食べてやる」
「運転中の俺の口にも入れて」
「アリンコサイズで入れてやる」
「えーせめてダンゴムシサイズにサイズアップして」
「どうしようかなぁ…」

ケラケラ笑いながら、長い脚に合わせてシートを下げたガクトは

「今月中にカオルちゃんはアパート出て引っ越しだよ」
「それって…来週末に作業ってことになるよ?」
「出来るでしょ?もちろん、手伝うから。平日に有給使ってもいいし…マンションもほぼ準備オーケーだろ?」
「うん、あとは使いながらだね」
「何も持って来なくていいんだけど、手放したくないものだけまとめて」
「分かった」

そう話しながらゆっくりと車を発進させた。その時、私のバッグの中で短くスマホが振動して見てみると

‘嫁入り道具はどうするの?’

というお母さんからのメッセージだった。何も持って来なくていい…ガクトがそう言ったからいい。私は今日お母さんとやり取りする元気はなくてそのままスマホをバッグにしまった。

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