だめんずばんざい





「ガクト」
「うん?」

フロントガラスだけでなく車体全体を、大粒の雨が大きな音を立てて叩きつける。忙しなく動くワイパーに逆らうようなゆっくりとした‘うん?’を聞くだけで私の心は落ち着いた。

「寝る」
「子守唄歌おうか?」
「ふふっ…雨に負けないように歌ったら大声だね」
「そうだなぁ、シャウトする?」
「絶対いらない」
「俺は時折夜中にカオルちゃんのエロチックなシャウトを聞くけどね」
「…ねぇ…今引っ越ししたら…あの‘お静かに’の手紙の隣人は、私がそのせいで引っ越ししたと思うのかな…?」
「さあ?6月だからジューンブライドだと思うかもよ?」
「ジューンブライドねぇ…」
「うちの家族とカオルちゃんの親が会う時には奏太くんたちも呼ぶよ」
「うん」
「多分、すぐにって言うと思うよ」
「うん。結婚はいつでもいいけど…すぐにでも来年でもいいけど…普通にいっぱいお出かけデートしたいな」
「それは一生しようね」
「あっ…光った?あっちで光った?…雷さま…来ないで…」
「苦手なのか。今のうちに寝ちゃえ。羊が一匹、羊が二匹…」
「あははっ、運転手が寝ちゃう」

結局眠ることなく話続けて私たちは帰ったんだ。

‘無事到着。お母さんから、嫁入り道具がどうのってメッセージが来たけど、もうマンションに引っ越しするから何もいらないってお父さんから伝えておいてね’

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