初恋
初恋

 長い間ずっと片想いをしているあの子が「誕生日プレゼントは一口チョコがいい」と言ったから、リクエスト通りの物を買って来たというのに……。

 あいつに、高そうなチョコを貰っているのを見てしまったから、僕は、制服のポケットに入れたちっぽけなチョコを、ぎゅうっと握り締めた。

 多分これは、初恋なのだと思う。寝ても覚めてもあの子のことばかり考えて、気付いたら目で追って、声をかける口実を探して、話せたら嬉しくて。ようやく誕生日を聞き出せた日は、嬉しくて一人小躍りした。プレゼントのリクエストまでもらえたから、少しは期待してもいいのかもしれないと、思っていた、のに。

 でも現実はこうだ。あの子は僕よりずっとイケメンで、背が高くて、勉強もできるあいつに、高そうなチョコを貰い、嬉しそうに笑っている。

 僕があいつみたいにイケメンで、あと十センチ背が高くて、勉強もできていたら、あの子は僕だけに笑顔を見せてくれただろうか。せめて僕が、自堕落な夏休みを過ごさず、アルバイトをしてお金を貯めていたら、あの子が喜ぶ物を買ってあげられただろう。顔は生まれつきだからどうしようもない、背もそれほど伸びなかったし、勉強は嫌いだ。でも夏休みにアルバイトくらいはできただろう。なぜ半年前の僕は、その選択肢を捨ててしまったのだ。僕は、本当に、なんて……、……。

 ふたりの様子を盗み見ながら、身体中を覆っていく、このどす黒い感情を、多分「憎悪」と呼ぶのだろうと思った。自分が自分ではなくなっていくような初めての感覚に身震いしながら、ポケットのチョコを強く握り直す。

 次第に溶けてどろどろになっていく感触は、僕の心とおんなじだと思った。


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