先生、私がヤリました。
魚眼レンズから覗いて外の様子を伺いました。

男の子が二人。
騒ぎながら階段を上っていきました。
兄弟か友達同士かは分かりません。

魚眼レンズから覗いて見る物は全部重力に逆らってるみたいにその物よりも後ろに引っ張られてるみたいに伸びて見えました。

魚眼レンズの中に全ての景色が収まっていて、全部偽物なんじゃないかって錯覚しそうでした。

絵本とかテレビみたいにその中だけで起こっていることで、私の脳内の妄想が立体になって映し出されてるみたいな。

確かな形で感じることは先生への想いだけです。
「気持ち」が一番確かな物なんておかしいですけど、信じられるのはそれだけでした。

自分のことも。
信じられるのはそれだけ。

心の中でゆっくり十秒数えて、玄関を出ました。
急いで鍵を閉めて、熊のキーホルダー付きの鍵をポケットに突っ込んで、階段を駆け下りました。

重たいキャリーケースを持ち上げて階段を下りるのはしんどかったけど、通常の三階分よりも低い位置にあって良かったって思いました。

寂れた公園なのかなんなのか分かんない場所には相変わらず誰も居なかったけど、さすがにベランダから誰か見てるかもなって思いました。

でももうそんなこと構ってる暇も無くて、足早にアパートの敷地を出ました。
誰か見ていたとしても至近距離じゃないし、小柄な男性だと思ってくださいって願いました。
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