先生、私がヤリました。
すごく早歩きだったし道は当たり前だけどアスファルトでガタガタ鳴りっぱなしだったし、電車は揺れるし、中のリズちゃんがさすがにしんどいんじゃないか、具合悪くなってないか心配になりました。

でも途中でキャリーケースを開けて確かめるわけにはいきません。
心を鬼にして私は突き進みました。
まぁ、拐った時点で鬼なんですけど。

リズちゃんのことはちゃんとおうちに帰すつもりだったのでノーカンですよね?
遊びに来てもらうだけだし。

はい。これがリズちゃんを連れ出すまでの真実です。

それからいよいよハヅキくんとリズちゃんのご対面です。
キャリーケースを開けた時、リズちゃんは具合悪くなるどころか眠っていたのでちょっと笑っちゃいました。

たまにいるじゃないですか。
乗り物の揺れとかが心地良くてどこででもすぐ眠っちゃう人。
そういう子なのかなって思いました。

リズちゃんを見たハヅキくんは目を丸くしました。

「はーくん?」

呼びかけたリズちゃんの言葉にもぽかんとしています。
はーくん、なんて突然呼ばれてびっくりしたんでしょうね。
それが自分のことだって理解するのに時間がかかったみたいでした。

私はハヅキくんの隣に行って、そっと耳打ちしました。

「そう呼ばせてあげて。仲良くしようねってことだから。」

ハヅキくんは黙って頷いて、「こんにちは。」って小さい声で言いました。

「はーくん、お誕生日のプレゼントよ。はーくんが欲しがってたお友達。」

「僕の、おともだち?」

「そうよ。お名前、教えてあげてくれる?」

私はリズちゃんに向かって笑いかけました。

「リズ。よろしくね。」

「うん。僕の名前は…」

「はーくん、いいの。」

意味は分かってなかったと思いますけど、ハヅキくんは頷きました。
恥ずかしそうにモジモジして、それから絵本を持って、「読む?」ってリズちゃんに差し出しました。

「ふふ。リズちゃん、これからいっぱいはーくんと遊んであげてね。さ、遊ぶ前にみんなでご飯食べよ!」
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