とある悪役令嬢は婚約破棄後に必ず処刑される。けれど彼女の最期はいつも笑顔だった。
 次の瞬間、執行人の剣の一振により、彼女の首がコトリと落ちた。

 「あ……あああああああ!!!!」

 目の前で殺された彼女の姿を見て、僕は絶叫し、両膝を着いた。
 
 これを彼女は何度経験した? 死ぬまでの恐怖にどれだけ震えてきた?

「ああああああああああああ!!!」

 どんな思いで、最期に彼女は笑っていたんだ!!?

 彼女がこれまで経験してきた出来事を想像して、僕は胸が引き裂かれそうになる程に痛んだ。
 だけど彼女はもっと痛かったはずだ。
 苦しかったはずだ!!
 彼女の悲しみはこんなものじゃなかった!!
 
 全てが憎い。
 彼女を死に追いやったサルウェルも!
 彼女の死を喜ぶこいつらも!
 彼女を苦しめるこの世界も!
 彼女を終わらない苦しみへと導いてしまった僕自身も!!

 今もまだ、彼女の死を喜ぶ歓声が広場を埋めて尽くしている。

「そんなに処刑が好きなら見せてやるよ……本物の悪党の処刑をな!」

 僕は瞬間転移魔法を使用し、サルウェルのすぐ後ろへ降り立ち、その襟足を掴み取ると、またすぐに処刑台へと移動した。
 突然、処刑台に現れた僕達の姿を見た人達からは歓声が止んだ。 

「な!? なんだ貴様は――」
 
 サルウェルが僕の方へ振り返ったその顔面を、思いっきり殴りつけた。
 床にうつ伏せになって倒れた王太子の後頭部を足で押さえつけ、僕は腰に帯びていた剣を引き抜き振り上げた。
 間もなく世界は崩壊する。残された時間は少ない。

「お前も一度くらい死んでみせろ!!! 彼女の苦しみを!! 無念を!!! 味わってみせろ!! そして喜ぶんだな!! その苦しみが一度だけで済む事を!!!!」

「グゥッ……なにを――」

 何か言いかけたその言葉を待つことなく、僕はその首めがけて剣を振り下ろした。

 先程まで歓喜に沸いていたその場は悲鳴へと変わり、パニックに陥った人達が逃げ出していく。
 そして、いつものように世界がひび割れを起こし始めた。

 だけどまだ終わらない。
 もう一人の罪人を罰するまでは。
 僕は彼女の前で両膝をつき、手にしている剣を自らの首元に当てた。

「アメリア、本当にすまない。僕を許さなくてもいい。だけど僕はもう、君を二度と殺させはしない。次は必ず、僕が助けに行くから――」

 世界が崩壊する。
 それよりも早く、僕は自らの命に終止符を打った。



 さあ、彼女を迎えに行こう――

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