とある悪役令嬢は婚約破棄後に必ず処刑される。けれど彼女の最期はいつも笑顔だった。
 もう、疲れてしまった……。
 どうせ私は愛されない。
 笑っても意味が無い。

「そなたが聖女暗殺未遂事件の一週間前、暗殺ギルドに向かう姿を目撃した者がいる。それも一人だけではない。それらの目撃証言には十分な信憑性があり――」

 ……あら? なんで今日はこんなに彼の声がハッキリと聞こえるのかしら?
 
 私は俯いていた顔を上げ、外の様子を伺った。

「え……?」

 思わず声が漏れ出た。
 さっきまで降っていた雨はあがり、雲の隙間から光が差していたから。
 今までそんな事は有り得なかった。有るはずが無かった。天気が変わるなんて――
 
「おい、何を笑っている!?」
「え?」

 今、私笑っていたかしら?

「いや、そなたが辛い時に笑う癖があるのは知っていたが……そんな風には笑っていなかったはずだ」

 そう言う彼は、何故か少しだけ頬を赤らめていた。
 それに気付いた聖女が不満そうに彼を睨んでいる。

 あら、ちゃんと私の事を見ててくれたのね。

 その事に少しだけ感心しながら、私は自分がこの事態を喜んでいる事に気付いた。

 私はこれから投獄され、処刑される。
 それなのに、ただ空が晴れている事が、こんなにも嬉しいなんて。

「ふふっ……だって、空が晴れているのですよ? おかしくありません?」
「は? 何を言っている? 確かに今朝は生憎の雨だったが……別に雨が止んで晴れたとしても、おかしくはないだろう」
「いえ、おかしいんです。だって今日は一日中、大雨になるはずだったんですもの。それはもう、あなたの声なんて全く聞こえなくなる程の酷い雨でしたわ」

 王太子は「気でもふれたか?」と怪訝そうな顔をしているけど、私は気にせず続けた。

「なんだか、運命が大きく変わった様な気がしますわ」
「は!! お前の運命などもう決まっている!! お前は一週間後、処刑台の上で――」

 その時、会場の外へ繋がる扉が開き、吹き込んだ風が私の頬を撫でた。

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