近くて遠い幼なじみの恋
「私に言われても」

婚約したのはあーちゃんで私は何もどうしようもない。

柊じいちゃんに言われた事を思い出した

“子供だったか”

じいちゃんの言う通り。
私達は力に抗えない子供でどうしようもない。

柊じいと鰯じいは絶対なのだ。

「昔からお前と魚屋貰うって俺と張り合ってたんだけどな」

「だからって…」

どうにもならない。

今さら私と魚屋貰うとか言われてもそんなの知らないし
あーちゃん結納しちゃってるし
全部が今さらだし!

いても立ってもいられずとにかく家を出た。

通いなれた道をとにかく走る
途中で躓きそうになったけどそれでも走る
胸が苦しくて痛いけどそれでも走る


はあはあ…


息を切らしながら敷居が高くて入る事が出来なかった大きな門の前に立った。

ただ今あーちゃんと話したくて仕方ない。

「みわ、」

入口を掃除する美和子さんが見え声を掛けようとして咄嗟に隠れた

「私にやらせて下さい」

「そんな、お客様なのに」

お客様というには違和感を感じる距離感。

艶やかな付け下げを着て掃除をしようとする人なんて1人しか居ない。

“婚約者”

タイトにまとめられた黒髪に遠目でも分かる上品な美しさ。

私は…
寝起きの無造作なショートヘアにTシャツにハーフパンツ

こんな姿で何を話すの?


「幸」

「こ、こんにちは」

声掛けられて振り返ると散歩帰りの柊じいちゃんの姿

「入らんのか?」

こんな姿でこの敷居は超えられない。
黙って首を横に振った

「いつもそうじゃ。お前はここから入ろうとしない。入れば良かろうに」

「決めてるから!それに分かってるから自分が居られる場所じゃない事くらい」

あーちゃんを好きなくせにずっと根底にある冷泉の敷居の高さ

「お前の場所…?それはワシには分からんが」

右手に持っていた杖を両手に持ち変えて

「絢の場所は幸の所と思うがのう」

いつもの見透かした顔で私も見据える

「じいちゃんのその顔大嫌い」

「そうかそうか。ワシはそんな幸と絢が若くて可愛くて好きだけどな」

いつも怖くて厳しいじいちゃんのくせに
たまに優しい所はあーちゃんのじいちゃんだと凄く感じる
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