こころが揺れるの、とめられない


金曜日の放課後。サッカー部の練習がある日。

普段はまっすぐ更衣室に向かうところだけれど、わたしは、美術準備室に向かった。


どんなに気が重たくても、先延ばしにすればするほど、このまま会いづらくなってしまうと思ったから。

そんなのは、嫌だった。


ベージュの開き扉の前に辿り着いたわたしは、一度大きく深呼吸をして、ドアノブへと手を伸ばす。

ガチャ、という音とともに一歩踏み出して、ぴたりと止まった。


後ろから聞こえた、足音。

誰もいない薄暗い準備室に足を踏み入れたところで、わたしは反射的に廊下を振り返り、呟くように名前を呼んだ。



「……三澄くん……」



伏し目がちにこちらに歩いてきていた三澄くんは、わたしを見て、驚いたように足を止める。

その表情にあまり変化はなかったけれど、形のいい瞳が、——どうしてここに、と。そう問いかけているのが、読み取れた。

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