憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました


慌しい十二月になって、由美は博子から呼び出された。
木曜日の夕方、話があるから西関東総合病院の院長室まで来てくれと言われたのだ。

立花診療所は休診日なので断ることも出来ず、病院へ向かった。
指定された時間は、午後六時。
どうしてこんな時間なのか見当もつかないが、院内は人影もなく静かだった。

美也子の術後の経過やリハビリも順調だし、急性期のこの病院を退院したら別のリハビリ専門病院へ移る予定になっている。そこも既定の入院期間以内には退院して自宅に帰る予定だ。
義母に介護の迷惑はかからないと思うのだが、なにを言いたいのか見当もつかない。

(柘植先生のことかもしれない……)

もし義母の耳に入ったとしたら厄介なことになりそうだ。

(母のように、逃げたりしない)

なにを言われても、きちんと対応しようと由美は決めた。
母は家庭のある人に恋をしたから、臆病になっていたかもしれない。
でも自分は悪いことなんてなにひとつしていないのだから堂々としよう。

由美は胸元にそっと手を置いた。
セーターの下には、細いプラチナのチェーンに通した直哉からもらった小さなダイヤの指輪がある。
金沢で直哉から左手の薬指にはめてもらった指輪だ。
一度は捨てようと思っていたが、捨てられなくてしまい込んでいたものだ。
二度目のプロポーズのあと、こっそりと胸に下げていた。

(私はひとりじゃない)

背筋を伸ばして院長室のドアをノックした。



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