憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました


しばらくして、由美の周りでは少しずつ変化があった。
父の義実は年が明けてすぐに院長を退任した。
後任は形式上では選挙となったが、義兄の克実が引き継ぐことになった。
まだ若いが、実力からいっても当然の流れだろう。

父は義母の博子と別れ、金沢にある公立病院の院長として赴任していった。

「お父さん……どうして金沢を選んだんだろう」

由美には義実の考えていることはわかりにくかった。
母はもう金沢にいないのに、あえて父はその場所を選んだのだ。

「由美……なにかを選んだら、別のなにかを捨ててしまう。きっと院長はやり直したくなったんじゃあないかなあ」

義実の心の中は誰にもわからない。
直哉も想像でしか言えないが、ふたりには父の寡黙な姿だけが残った。

今、あの豪華な家には義兄夫婦と博子が住んでいる。
博子はすっかり大人しくなって、ボランティア活動にだけ熱心に参加しているようだ。
やがて克実夫婦に孫でも生まれたら、博子も落ち着いていくだろう。
裕美はロンドンの病院で学び直すと宣言して、日本を離れていった。
理香からの情報では、向こうで結婚する気満々だという。裕実らしいと理香は笑っていた。

やがて、春になった。

リハビリ専門病院から美也子が退院するのを待って、由美は直哉と籍を入れた。
それと同時に、直哉は立花診療所に転がり込んできた。

由美は金沢の家に彼と一緒に住んでいた頃を思い出していた。

「あの時と同じね」
「ああ、こうなると思ってマンションには家具を入れてなかったんだ」
「ズルいわ、直哉さん」

由美も直哉も笑っている。
ふたりが寄り添っている姿を、五月や美也子は仲がよくてなによりだと喜んで眺めている。

立花診療所は、今日も明るい笑い声で溢れていた。









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