憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました


土曜日になった。

直哉は昨夜遅くに、大動脈に問題のある救急患者が運び込まれたと呼び出しを受けていた。
患者は急性の大動脈解離だったので、難しい心臓血管手術となった。
直哉は7時間にも及ぶ手術を執刀し、明け方に無事終わった。
患者の様態も気になっていたので、直哉は当直室で仮眠をとってしまった。

疲れ果てていたのか、直哉が当直室のベッドで目覚めたのは午後三時を過ぎだった。
土曜の午後とあって、院内はシンとしている。ベッドに寝転んでいても静けさが伝わってくる。

(今夜は立花家の食事会か……)

是非にと院長から声をかけられたので、気が重かった。
一度マンションに帰って着換えなければと思うが、気が進まないせいか体が重い。
それでもなんとかベッドから降りて当直室から出ようとしたら、廊下から由美の声が聞こえたのでドアを開けるのを一瞬ためらってしまった。

(由美と、理香先生か?)

会話の内容が耳に入ってくる。
克実の妻で産婦人科医の里香と由美がたまたま出くわしたらしい。
ちょうど当直室のドアは職員用の階段の陰にあり、人目につきにくい場所だ。
ふたりは周りに人がいないと思って話し込んでいるようだ。

「ごめんね、由美ちゃん。今夜も裕実さんの代わりで当直なんでしょ」
「いいのよ、理香さん。気にしないで」

ふたりの話しぶりから親し気な様子が感じられた。
隠れているようで気がひけたが、直哉は当直室から出るのをやめた。


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