憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました


ある日、由美は直哉に誘われて近所の散歩に出かけた。
他愛ない話をしながら近くをブラブラと歩いていたら、いきなり新築のマンションへ連れて行かれた。

「引っ越したんだ」

直哉は裕美との縁談を断ったと、正直に話してくれた。
だから立花家が用意してくれたマンションから急いで引っ越したという。
わざわざ立花診療所の近くを選んだのが直哉らしい。
由美の近くにいたいという気持ちを、ストレートに伝えたかったのだろう。

まだ家具も揃っていない、がらんとした部屋だった。
ただ大きな窓から景色はよく見えたので、沈んでいく夕陽に染まる西の空が美しかった。

「由美、金沢でのように……ここで僕と生活しないか」

いきなりの言葉に狼狽えて、祖母を理由に断ろうとしたが彼は諦めない。
認知症の傾向が見られ始めた美也子の側を離れて、もしなにかあったら由美は後悔するだろう。もう由美を愛してくれる家族は美也子しかいないのだ。

なかなか一歩を踏み出せない由美は、直哉から信じられない言葉を聞かされた。

「私は、もうなにも失いたくないの!」
「失った……子どものことか?」

なぜ彼が知っているのか狼狽えたが、由美と理香の会話を聞いてから調べたのだろう。
由美がなによりも忘れたかった過去だ。
辛すぎて、思い出さないように封印して胸の奥にしまい込んでいた。

「私の赤ちゃん……」

生まれてこなかった自分と直哉の子ども。
直哉に裏切られたと思ったと同時に失った、恋の形見。

思い出したら、涙が止まらなくなってしまった。




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