他の誰かのあなた
「そんなのたいしたことじゃないわ。
あなたこそ、何を出しても文句も言わず食べてくれるから助かってるわ。」

私達は顔を見合わせて微笑んだ。
穏やかで満ち足りた時間…
本当に柴田は夫として何の問題もない人だ。
なのに、私はなぜ悪いことをしようとしているのだろう。
ふと感じた罪悪感に、私は心を閉ざした。



「そういえば、今日はどこに行ってたの?」

考えたくなくて、私は柴田に話を振った。



「あぁ、今日は本当に参ったよ。」

「どうしたの?」

話を聞いてみると、同僚が熱を出して寝込み、その人は独身で一人暮らしだから、看病してくれる人がいなくて、それで、柴田が駆け付けたということだった。



「そうだったの、大変だったわね。」

「僕はたいした家事は出来ないから、薬や食べられそうなものを買って行っただけだよ。
一人暮らしだから、部屋の中もかなり荒れてたけど、具合悪くて寝てる横であんまりバタバタするのもどうかと思ってね。」

「そうね。片付けはまた別の日が良いでしょうね。
それで容態は良くなったの?」

「うん、薬とドリンク剤を飲んだら、熱も下がってきたよ。
そうそう、家に体温計もなかったから、また買いに行ったんだよ。」

柴田はそう言って苦笑いを浮かべた。
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