観念して、俺のものになって


「やっぱり今日もここに来たわね!
アンタ、本当に紬とあの日入籍したの!?」


この人はいつも派手な格好で厚化粧だから、遠くからでも誰かすぐに分かる。

今日はワインレッドのスーツを身にまとっていた。

痛っ、長い爪が皮膚に食い込んで痛いよ!!

鬼気迫る顔で尋ねられて、パニックになった私は死に物狂いでその腕を振り払う。


女性はそれに驚いたらしく、
私を掴んだ腕を離す。


「もう私に構わないでください!!」

悲鳴のように叫んでから、一目散に駆け出した。

「ちょっ……待ちなさいよ!!」


女の怒声が聞こえたけど一切振り向かずに、駅を目指してひたすら走る。

すぐに女は私を追いかけ始めたようで、私の後ろからは女のものらしいヒール音がカツカツと聞こえてきた。

ヒールを履いているなら、
そんなに早く走れないはずよ!


運の悪いことに、今私が走っているこの場所は帰宅ラッシュの時間を超えると人通りが極端に少なくなる。

とにかく走って大通りまで出れば、
手を出される可能性は低くなるはずだ。


それに、駅の近くには交番がある。

どうにかそこへ逃げ込めれば……!!


そう思った瞬間ーーーぐっと鞄を引っ張られて、私はつんのめって転んだ。

「きゃあっ!!」


両手を前に出して体を支えようとしたけど、そのまま地面に倒れ込む。

その拍子に右側のパンプスが脱げた。


体を支えようとした両手、そして右膝はアスファルトに擦れ、ひどく痛む。


ああ、これは血が出ているな。


「いったぁ……!」


痛みに顔を歪めていると、再びグイッと腕を引っ張られた。

「はあ、はあっ……アンタねえ、ほんといい加減にしなさいよ!!」


息切れしながらも、怒鳴る女性の顔はひどく歪んでいた。

誰でもいいから、道ゆく人に助けを求めようと口を開ける。

でも、その喉から漏れ出たのは助けを求める声ではなく、ひゅうっという風音だった。



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