円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 だから両親は黙っていたのだ。
 ヘタにわたしに考える時間を与えれば、もうおてんばなことができないことに気づいて断固拒否するだろうと。
 それならば、いきなり婚約を申し込み、舞い上がったわたしの筋肉しかないはずの脳みそが一時的にお花畑になって、あっさり受け入れてしまうように仕向けよう。
 そんな画策があったに違いない。

 そしてこれまたタイミングがいいことに、1週間で音を上げたタイミングでレイナード様との合同の勉強会とお茶会が催される。
「シア、頑張っているんだってね。僕のためにありがとう。今日のお菓子はシアの大好物のマカロンを用意したんだ。さ、食べようか」
 にこっと笑って差し出されたマカロンを遠慮がちに受け取り、眼球だけを動かして周りに作法の先生がいないか確認していると、レイナード様がくすっと笑った。
 
「大丈夫だよ、この時間は二人っきりにしてもらうことになっているから、誰の目も気にすることないよ」

 その言葉でようやく緊張を解き、いつものように足を投げ出してマカロンを一口で頬張った。
 レイナード様は、そんなわたしを見て「かわいいね、リスみたいだ」と笑いながら、自分のマカロンまでわたしにくれたのだった。

 こうして週イチの、いろんな意味で甘いお茶会に釣られてわたしは高等学院に入学するまでの5年半、お妃教育という苦行に耐え抜いたのだった。

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