円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 事の発端は、1年前。
 高等学院に入学直前のことだった。

 婚約者であるリリーとともに、王妃様から極秘任務を仰せつかったのだ。

 ちっとも進展しないレイナードとステーシアの仲を、もっと甘い雰囲気にしてほしいと――。


 父は国王陛下に仕える宰相で、いずれ自分もそうなりたいという野心もあるし、「おまえと王子が同学年になるように、王妃様のご懐妊がわかってすぐに子作りに励んだ」とか浪漫の欠片もないことまで言われても、その期待に応えようと努力してきた。

 ちなみに、もしもレイナードが女だったり、俺の方が女だったり、性別が違っていた場合は、レイナードの婚約者にするつもりだったらしい。
 冗談じゃない、あんなヘタレで面倒くさい男と結婚だなんてまっぴらごめんだ。
 このぶっちゃけ話を聞いた時は心底、同性でよかったと思ったものだ。

 それこそ生まれた時から家族ぐるみでの付き合いをしてきた俺とレイナードの仲だ。
 彼が10歳で婚約したことも、そのお相手が屈強な騎士を多く輩出しているビルハイム伯爵家のご令嬢であることも、もちろん知っていたし、そのステーシアとは面識もあった。

 ステーシアはとにかく「おてんば」で、巻き込まれて叱られるのが嫌だからレイナードがステーシアと一緒に遊んでいる時は近寄らないようにしていた。
 レイナードはいくら叱られてもいつも必死にステーシアについていこうとしていて、その様子はまるで姉と弟のようだったけれど、裏を返せばそれほどまでに二人は親密で相思相愛だったということだ。


 女の子のように可愛らしくて泣き虫だったレイナードの雰囲気が変わったのは、ステーシアとともに森で吸血コウモリに襲われた後からだ。
 無傷のレイナードに対し、ステーシアはひどいありさまだったという。

 このときからレイナードは、次は自分が守る側になると決意して剣術に励むようになり、それと同時にステーシアと婚約したいと自ら陛下に申し出たらしい。
 レイナードは、お妃教育が始まり忙しくなったステーシアと過ごす時間より、俺と共に剣術に励んだり勉強する時間の方が長くなった。

 いつの間にか俺よりも背が高くなって男らしくなり、それでも王妃様譲りの美しさも兼ね備えているレイナードは「美丈夫」という言葉がぴったりな青年になった。

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