円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 わたしを抱きしめるレイナード様の首元からは、かすかに汗の匂いがする。
 どれほど懸命に探してくれたんだろうか。
 これでまたレイナード様が妙な罪悪感を持たなければいいのだけれど…。

 汗の匂いは苦手ではない。
 むしろ、脳筋のわたしは汗の匂いが好きなぐらいだ。
 それがこの至近距離で、麗しいレイナード様から香ってくるというのを意識すればするほど、クラクラしそうになる。  

「レイナード様、お疲れでしょう?あまり眠っていないのではないですか?」
「それはシアも同じだろう?」

 いえいえ、わたしはほぼ地べたみたいなところでもぐっすり眠りましたよ。

「どこにも行きませんから、せめて馬車の中で仮眠をとってください」
「じゃあ、シアが膝枕してくれたら。あとは、その言葉遣いをやめてレイって呼んでくれたらシアの言うことを聞くよ?」

 突然あれこれ要求しすぎなのでは!? 
 でも、休息をとってもらうために、ここは太っ腹に全て受け入れようと決めた。

「わかったわ、レイ」
 そう言うと、レイナード様はパアッと顔を輝かせてわたしを膝からおろし、上半身を傾けて頭をわたしの太腿に乗せた。
 さすが王室用の馬車だ。広くて柔らかい座席のおかげで体の大きなレイナード様でも横になることができる。

「シア、着いたらたくさん話したいことがある。だからどうか、逃げないで欲しい」
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