円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 キースとジェイがビルハイム邸を離れることになった日、ルシードも朝からやって来てずっとキースのそばにくっついていた。

「ルシったら、もう泣きそうな顔をしてる」
「お頭も案外涙もろいところがあって、普通の若い兄ちゃんなんだと思った。俺がこんなこと言ってたってのは、お頭には内緒だぜ、嬢ちゃん」
 ジェイと顔を見合わせて、ニシシと笑った。

 ジェイは一旦キースと共にアジトに戻り、仲間の今後の身の振り方を一緒に考えて手助けをした後に家族の元に戻るらしい。

 案の定、いよいよお別れとなったときに、ルシードはキースにしがみついて離れず号泣していた。
 キースは苦笑しながら指笛で鷹を呼び寄せ、それをルシードの肩に乗せた。

「こいつの足に手紙を括りつけて飛ばせば俺の元に届くように躾けてある。またいつでも会えるから安心しろ。立派な魔導具師になれるようにしっかり勉強しろよ」

「わかった。毎日手紙を書くよ」

「そうだな、こいつが疲れない程度にしてやってくれ」
 
 そう言ってルシードの頭をポンポンと撫でたキースは、こちらを振り返ると軽い身のこなしであっというまにわたしの目の前までやって来た。

「山猿、そこの色男にフラれたらいつでも俺のところに来い」

 あら、フラれなくったってまたアジトに遊びに行きたいわ。
 そう言おうと思ったのに、後ろからレイナード様の腕が伸びてきて羽交い絞めにされてしまった。

 お頭がわたしのことを「山猿」と呼ぶたびにレイナード様のヘンなスイッチが入ってしまうのよね。
 困ったものだわ。

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