円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 馬に乗るキースの姿が見えなくなるまでずっとルシードは手を振り続けていた。

 その様子を見ていたレイナード様が、兄弟っていいな…と、つぶやく。
 レイナード様は、一人っ子だ。
 王妃様はレイナード様を産んだ後の肥立ちが悪く、それ以上子供が産めなかったと聞いている。

「レイ、わたしたちは子だくさんになれるといいわね」
「そうだね」
 
「毎日頑張りましょうね!」
 そう言うと、レイナード様は驚いた様子で「毎日!?」と裏返り気味の声で聞き返してきた。

 母からは、子作りは夫に任せればいいとしか教わっていない。
 お妃教育の先生には、結婚の日取りが正式に決まった時に追い追いとだけ予告されている。
 確か子供の頃に読んだ本には、愛し合う二人が天使様に赤ちゃんが欲しいと祈りを捧げればお腹に宿るのだと書いてあったのを覚えている。

 だから、毎日頑張ってお祈りしましょうと言ったのだけれど、そんなに驚くことだったかしら。

「そうね、公務で忙しいと毎日は無理かしら。じゃあそのかわり、お互いにお休みの日は、一日中すればいいわね」
 するとまたレイナード様は、今度は声を潜めて「一日中!?」と聞き返してきたのだ。

「わかった、シアがそうしたいって言うんなら、今からしっかり体力づくりをして頑張るよ」

 あら、天使様へのお祈りってそんなに体力を使うハードなものなの?
 大丈夫よ、わたし、体力には自信があるもの。

「望むところよっ!」
 こぶしを握りながら笑うと、レイナード様はどういうわけかその綺麗なお顔を真っ赤に染めて、わたしのことをぎゅうっと抱きしめたのだった。 

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