円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「妙な忖度はされたくないの。わたしは本気で騎士として認められて将来の入団の確約が欲しいの。だから、素性を隠して参加したいんだけど、いいかしら?」

 先ほどまでにこにこ笑いながらわたしの話を聞いていたレオンの表情が一変する。

「はあっ!?何言ってんだ、ステーシアは将来、王妃になる……あ、そうか」

「そうよ、レイナード様とは近い将来、婚約を解消することになるんだもの。過去に王太子殿下に婚約破棄された令嬢がどうなったか、お兄様知ってる?」

 リリーから聞いたその憐れな末路を語ると、レオンは「ちょっと待ってろ」と青ざめながら部屋を出ていき、ほどなくして次兄のスタンを連れて来た。

 スタンの顔もレオンと同様、青ざめている。

「なんで何も悪くないステーシアが命を狙われないといけないんだ、ふざけやがって!なあ、これは父上から陛下に嘆願してもらうしかないんじゃないのか?」
 次兄のスタンは3つ年上で、長兄と同様、騎士団に所属している。
   
「何てお願いするんだ?『娘を殺そうと思っていらっしゃるのなら、どうかおやめください』か?」

 10年以上騎士団の団長を務めている父は、国王陛下からの信頼も厚いと聞いている。
 相変わらず家にはほとんどいない父だけれど、家族思いであることは間違いなく、特に娘のわたしには甘いため本当にそういうことをし兼ねないという懸念がある。

「やめてね?そういう大騒ぎにならないように円満な婚約破棄を目指しているの。だから、騎士団になくてはならない人材だって認められたいわけ」
 二人の兄の顔を交互に見ながら諭すように言う。

「素朴な疑問なんだが、どうして騎士団なんだ?ステーシアはダンスの先生が向いていそうな気がするんだが」
「いや、それを言ったらもっと総合的な体操の先生とか?体を動かすことならなんだって得意だろ?今日、凄まじい猛ダッシュで俺の胸に体当たりしてきたときは、その衝撃で心臓が止まるかと思ったぞ」

 あら、レオンお兄様ったら全然平気そうな顔をしていたくせに、そうだったの?
 こっちは鼻がつぶれたかと思ったわ。
 お互い無事でよかったわね。


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