円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 ルシード・グリマンに関して、ビルハイム家の執事にお願いして少し調べさせてもらった。
 
 グリマン男爵家は、優秀な魔導具師を多く輩出している家門ではあるけれど、たしか彼らの血縁者はほとんどが銀髪だった気がしたのだ。 
 この国では珍しい黒髪で黒い目をしたルシードがグリマン家の血を本当に受け継いでいるのか――それは決して好奇心ではなく、ルシードの魔導具師としての資質を知りたかっただけなのだけれど、結果として彼のあまり幸せとは言えない生い立ちをあぶりだしてしまう結果となった。

 ルシードは幼い頃の記憶が曖昧で、自分がどこの出身でどんな家庭に生まれたかほとんど覚えていないという。
 10年前の騎士団による山賊一掃作戦下で、山中で発見されたときには高熱にうなされており、おそらく山賊が足手まといになる病気の子供を置いて行ったのだろうということで保護された。
 
 病気が治った後、孤児として孤児院に預けられたが、引っ込み思案で人付き合いが苦手なために何年たっても馴染むことができず、見かねた院長が専門職の才能があるのならその家門との養子縁組を検討したほうがいいかもしれないと決心して早めの鑑定を依頼したらしい。

 適正鑑定は、例外を除いて15歳以上でないと受けられないと定められている。
 それまでに歩んできた経験や環境の積み重ねがあってこそ、正確な適正鑑定が出来るからだ。それよりも幼い年齢で行うと、生まれつきのポテンシャルとしての魔力量ぐらいしか測れないのだが、ルシードは推定年齢11歳で「星3の魔導具師」という結果が出たらしい。
 念のため別の鑑定士が鑑定しても結果は同じだったとか。

 そこで魔導具師の家門として最も優秀で歴史のあるグリマン男爵家との養子縁組が決まり、引き取られたのが5年前。
 グリマン家の家族たちにはとても大事にされ、将来を嘱望されている若き魔導具師のようだ。

 
 魔導具とは、原動力が魔力の道具のことだ。
 使う者が魔力を流すことで発動する道具や、そのかわりに魔力をこめた魔石を仕込んである道具、魔導具師が魔法を流し込むことで半永久的に効果が続く道具などがある。

 魔導具の悪用を防止するため、魔導具師の権利を守るため、そして責任の所在を明確にするために、新たに発明した魔導具は全て登録しなければならないと法律で定められている。
 さらに、殺傷能力の高い魔導具を製作するには事前の申請と承認が必要となる。

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