円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「ちょっと来て」
 有無を言わさぬ調子でわたしの手を引っ張って集団から離れ、木立の中へと連れていかれる。

「え、あの…ちょっと!勝手な行動はダメですよ」

 レイナード様は木立を抜けたところでようやく手を放した。
 そして、振り返ってため息をつくと、わたしの胸元へ手を伸ばしシャツのボタンを留めてくれた。
 
 あら、必死だったから胸をチラ見せしたままだったことを忘れていたわ。
 わざわざボタンを留めるためにここまでわたしを引っ張ってきたのかしら?

「勝手な行動をしているのはきみのほうだろう。あんな危険なことをして、グリフォンにさらわれたらどうするんだ」

 いつから見ていたんだろうか。
 わたしの華麗な木登りは見てくれたかしら。
 残像ダッシュ、すごかったでしょう?

 思わず、ふふっと笑いが漏れる。
「大丈夫よ、わたしはあなたが思っているよりもうんと速く走れるし、いずれ騎士団に入ったらもっと大型の魔物の引付役として活躍することになると思うわ」

「大怪我するかもしれないだろう?綺麗な体に傷痕が残るかもしれないし、ヘタしたら死ぬんだよ?わかってるのか?」
 レイナード様は憮然としたままだ。

 なぜあなたに、そんなことを言われないといけないのかしら。
 誰のせいでこうなったと思ってるのよ。
 王太子であることを隠して、無茶なことをする訓練生に説教しに来たわけ?

< 98 / 182 >

この作品をシェア

pagetop