円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「構わないわ。何も悪くないのに殺されるより遥かにマシだもの。もともと誰かに頼って守られたまま生きていくなんて性に合わなかったの。体に傷が残ろうが、片手を失おうが、仲間の命を守れるのなら本望よ」

 レイナード様は相変わらず険しい顔をしている。
「婚約者がいるんだろう?」

 だから、それはあなたのことで、しかもあなたがわたしのことを殺せと命じることになるんですからねっ!

「もういないのと一緒です。彼は他の人のことが好きだから、もうすぐ破談になる予定なの。でも、心変わりされても無理もないと思ってるから同情はいらないわよ?わたしみたいな可愛げのない女は、脳筋らしくたくましく生きていくから、どうぞご心配なく」

 どうして胸がツキンと痛むのだろうか。
 わたしはまだ、この期に及んでレイナード様のことを慕い続けているのかしら…。 

「ナディアならいま、海賊と駆け落ちする準備をしているよ」

 あまりに唐突に言われて、理解が追い付かない。
「……え?」

 問い直そうとしたそのとき、わたしたちを大きな影が覆った。
 
 ハッとして見上げたその先に急降下してくるグリフォンが見えて、そのあまりの大きさとスピードに驚いて一瞬反応が遅れた。
 
 さっきのグリフォンではない。もっと大型だ。
 つがい?それとも親子?
 あの子の鳴き声を聞いて助けに来たのだろう。

 急降下してきたグリフォンは気が変わったのか、それとも方向転換するタイミングで偶然わたしたちが居合わせただけだったのか、わたしたちには襲い掛からずに頭上でバサバサと羽ばたくと、騎士と小型のグリフォンが戦っている方向へと飛んで行った。

 その風圧で、わたしは木立の方へ軽く飛ばされ、レイナード様は反対側へと大きく飛ばされた。


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