婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「だ、だ、だ、だ、だ……、旦那様……」
 この侍女頭は公爵よりも年上であったため、とうとう壊れてしまったのかと思った。だが、そうではなかった。彼女は激しく動揺していたのだ。
「お、お、お、お、お、女の子です」

 その一言が、この侍女頭を壊れるくらい動揺させる理由として充分なものであった。
 公爵は三人の息子たちと呑気にソファに腰かけて、四人目の子の誕生を今か今かと待っていたのに、呑気に待っていた自分に後悔をした。

「サフィーナ」
 公爵は愛する妻の名を呼ぶ。
「お母さま」
「おかーさまー」
「おたーしゃまー」
 三人の息子たちも母を呼ぶ。

「でかしたぞ」
 騒々しく部屋に入ってきた男四人に、公爵夫人は優しく笑顔を向ける。
「静かにね。赤ちゃんが驚いてしまうから」
 と言い終えぬうちに、ふぇっふぇっという小動物のような泣き声が聞こえてきた。

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