婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 リューディアは困ったような表情を浮かべ、そして助けを求めるかのようにエメレンスに視線を向ける。今日はまだ帰ることができない。その一言を彼に伝えればいいのに、それをリューディアはなかなか口にすることができなかった。
「エリック、悪いがボクたちはまだ仕事が残っているんだ。ディア、早くこの書類を片付けて」
 エメレンスはリューディアの机の上に書類の束を置いた。

「あ、はい……。ごめんなさい、エリックさん。そういうことなんです」

「そうなんですね。仕事なら仕方ないですね。じゃ、先に帰ります。リディアさんも無理なさらないように」

「はい、ありがとうございます。お疲れさまでした」

 リューディアがにっこりと笑うと、エリックも嬉しそうに笑い返し、そして手を振って帰っていく。その彼の姿が見えなくなってから、リューディアはふぅと小さく息を吐いた。変に緊張してしまった。もちろん、エメレンスはその様子に気が付いている。

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