婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 これが、モーゼフの立太子の儀を五日後に控えたときの出来事。

 その日。そのドタバタ劇が落ち着いたころ、リューディア、エメレンス、そしてモーゼフの三人が応接室でゆったりとお茶を嗜んでいた。

「そうか。エメレンスはリューディアと結婚することを決めたのか」

「はい。まだ婚約ですが。婚約してから一年以上経たないと、ボクたちは結婚できないでしょう」

「そうだな」
 それは彼らの結婚相手が、それにふさわしい人物であるかどうかを見定める期間。

「リューディア。おめでとう。君にはエメレンスのような男が相応しいよ」
 と、形式上の言葉を口にするモーゼフだが、本心は別なところにある。もちろん、リューディアもエメレンスもそれに気付くはずもなく。

「ありがとうございます」
 リューディアも素直にその言葉が口からついてくるのが不思議だった。モーゼフにはもっと複雑な感情が生まれると思っていたから。

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