婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「私は君を好いていた。君がとても愛らしくて、君が近くにいるだけで胸が苦しくなった。君をブスと思い込み、君を嫌って君から嫌われれば、そのような気持ちから解放されるのではないかと思った」
「はい……」
「でも無理だった。君に会えば会うほど、胸が痛んで苦しくなる。だから、私は君から解放され、君を解放することを望んだ」
 それが婚約解消の事実。いや、モーゼフの思い。それでもこの婚約解消には彼女には知られたくない別のモーゼフの気持ちと理由がある。

「リューディア。どうかエメレンスと幸せな家庭を築いてくれ」

「ありがとうございます。ですが、わたくしがモーゼフ様と共に過ごした時間は、わたくしにとっても必要な時間であったと思っております」

「リューディア。相変わらず君は優しい」
 だから、私の相手としては相応しくない。というモーゼフの心の呟きは誰にも聞こえない。

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