婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「え? あ、ああ、うん。そうだよ」
 今さらそうじゃない、ともエメレンスは言えない。どちらかというと、モーゼフとの婚約をあきらめたら、ということを提案したかったのだが――。

「ですが、モーゼフさまは私のお顔が嫌いとおっしゃっているのです。どうしたらいいのでしょう……。あ、顔を、見せなければよろしいのでしょうか」

「あ、うん。そう、そうだね」

「そうなのですね、どうしましょう……」
 またうっすらと目に涙を溜めたリューディアは困った様にそう呟いた。

 そして、このモーゼフとのことがきっかけとなって、リューディアが人前に出ることを非常に恐れるようになってしまった。
 両親が理由を問い質しても、人と会うのが怖いという始末。人にこの顔を見せたくない、と言うだけ。

 後日。なぜかエメレンスからリューディア宛てに眼鏡が届いた。それには手紙が添えられて。

『このメガネは君の顔をかくしてくれます。ボク以外の男の前ではけしてこれを外さないでください。君の顔についてとやかく言う人がいるかもしれないから』

 少し引きこもり気味になりつつあった彼女を外の世界へと誘う、そんな魅力を備えているのがその眼鏡だった。素顔を晒すことに自信を失っていたリューディアにとって、エメレンスから贈られた眼鏡は、彼女を勇気づけるものでもあった。
 だからこそ、家族以外、そしてエメレンス以外の人の前ではこの眼鏡を外さないようにしようと、リューディアは誓うのだった――。
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