婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「あの眼鏡の素顔を、晒してみたいものですな」

 下世話な一言であった。だが、それでもモーゼフの心には突き刺さる。リューディアの眼鏡姿でさえ心臓が苦しくなるというのに、あれを外されてしまったら。恐らく心臓が爆発してしまうだろう。
 そしてモーゼフは悩みだす。婚約者である彼女は自分を狂わせる、と同時に苦しめる。この不思議な思いから解放されたい。
 そしてその時、運命と思われる女性と出会ってしまったのだ。彼女と会っているときは婚約者の彼女と会っている時と違う気持ちになる。ちょっとだけ胸が熱くなるような。
 この気持ちは何と呼ぶのだろう。

『モーゼフ殿下の婚約者のリューディア様は、いつも眼鏡をかけていて、モーゼフ殿下に相応しいとは思えませんね。殿下は、このように素敵でいらっしゃるのに』
 運命の女性であるフリートの一言もきっかけになった。そして、とうとうモーゼフは行動をうつすことにした。

『リューディア・コンラット。私との婚約を解消してもらいたい』

 悩んだモーゼフの口から飛び出した言葉はそれ。だが、今になって思う。なぜ、そのようなことを口にしてしまったのか、と。

 モーゼフの隣では、フリートが穏やかな笑みを浮かべている。
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