婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「それは、自分で報告いたします。何もエメレンスさまのお手を煩わせなくても」

「だが、今回はこちら側の非だ。きちんと謝罪したい。本当に、兄上が、申し訳なかった」

 深く頭を下げるエメレンス。

「ですから、エメレンスさまは何も悪くありません。悪いのは、このように醜いわたくしなのです。どうか、頭をあげてください」

 姿が見えなくても、リューディアがあたふたと焦っていることを、エメレンスは気配で感じ取っていた。だから、リューディアは可愛いのだ。なぜこのような可愛らしい女性が兄の婚約者なのか、ということがエメレンスにとってずっと不満に思っていたこと。彼女に見えない表情の下で、にたりとエメレンスが嬉しそうに笑ったことに、もちろんリューディアは気付いていない。
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