初めて恋を意識したあの日のことなど
 普段は縁のあるメガネをして、いつでも真っ直ぐ前方を見ている。それは多分、身構えているからこその態度。でも今はメガネが無いってだけで、どこか頼りない表情をしている。心の内の動揺が素直に表れているんだ。なんだかそれが面白い。

「こんな顔していたんだな、小川って」

 ついぽろっと思った事をそのまま言ったら、小川の頬がぱっと赤く染まった。

「もういいでしょ。顔見るの、お終いっ」 

 そう宣言をして、これ以上見られないようにと両手で顔を隠してしまう。

「駄目。見せてよ」

 もっと顔が見たくて、軽い気持で手首を掴んで引き寄せた。

 テレビゲームだってパソコンだって一通りやっているのに、なぜか視力が落ちた事がない。そんな自分にとって、メガネもコンタクトも未知の世界だ。コンタクトにしただけで何でそんな表情になってしまうのか、メガネとどう違うのか、興味は尽きない。

「コンタクトしているかって、見て分かるもんなの?」

 まずは形状からということで、ひたすら小川の瞳を観察する。

 こげ茶色の瞳。充血気味の白目。コンタクトとの境目はどこなんだろう。それを発見しようとしているはずなのに、興味の対象が少しずつ広がってゆく。

 上へ向かってカーブを描くまつげ。まぶたが心なしか腫れぼったい感じがする。小川の視線は前方を向いたまま。頭も微動だにしていない。瞬きしないのかな、ってなんとなく思っていたら、小川の目じりがしだいに赤く染まってきた。それなのに、やっぱり小川は動かない。

 ……って、あれ? もしかしてこれって、硬直してる? 何で?

 その時初めて、自分が小川の手首を掴み、じっと顔をのぞきこんでいるシチュエーションに気が付いた。

 ちょっと待て。

 いくら好奇心から夢中になっていたとはいえ、これって接近しすぎじゃないか?

「あー、駄目。やっぱ分かんないや。偉大だな、コンタクトって」

 慌てて手を離し、取り繕う。でも心の中では自分の行動に最大限に焦っていた。いやだって、ただのクラスメイトだもんな。さすがにこの距離はまずいだろう。

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