初めて恋を意識したあの日のことなど
 小川とは、二学期の席替えで前後になってから話すようになった。こっちが話しかけると反射的にびくっとする。そのくせ怯えている訳でもない。結構気も強かったりするんだ。元々、警戒心が強いのかもしれない。それがリスとかハムスターを連想させる。

 けどお早うとか昨日の宿題やったかとか、どうでも良い話をする度にちょっとずつ打ち解けてきた。最近では身構えることなく普通に話すし、笑顔を見せるようにもなってきている。なんだか小動物が少しずつ人に慣れてくる感じ。

「あっれ? 小川、今日はメガネ無し?」

 一時限目の終了を告げるチャイムが鳴って、早速小川に話かける。本当はとっくに気が付いていたくせに、まるで初めて知ったような素振りをした。

「コンタクト、にしたの」

 そう説明する口調が固い。視線を泳がせて、こちらと目を合わせようとしない。まるでこれ以上見ないでくれと言っているみたいだ。

「コンタクトか。へー」

 高校に入ってメガネからコンタクトに替える人間がほとんどの中、小川はずっとメガネ派だった。そんな彼女が今更ながらコンタクトに挑戦して、それだけでなぜか緊張している。やっぱりこういう反応の仕方があれだ、小動物。

 更なる反応が知りたくて、あえて正面から小川を見つめてみた。

「ちょっとそんなに見ないでよ」

 露骨に嫌そうな態度。

「いいじゃん。減るもんじゃないし」
「私の顔は減るの」

 まるで小学生同士の会話だよな。って思ったら、今まで耐えていた笑いがこみ上げてきてしまった。

「俺、初めてって初めてなんだよ。だからもうちょっと見せてよ」
「なによ、それ」
「今までメガネしていた奴がさ、初めてコンタクトにしてきたのを見るのが初めて」

 良く意味の分からない言葉で混乱させて、その隙に目の前の彼女を見つめ続ける。

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