初めて恋を意識したあの日のことなど
2. コンタクト
 まだ緊張する手つきでコンタクトをつまみ上げ、片方の目にそっとそれを滑り込ませる。まぶたを押さえる左手に力がこもるけど、つるんって感じで透明な膜は私の瞳に張り付いた。

 反射的に目をしばたかせて、鏡に映る自分をじっと見つめる。十七年間見慣れたぼんやりとした顔は、輪郭を鋭角にして、どこかよそゆきの表情で私を見つめていた。

 先週の金曜日、私は生まれて初めてコンタクトに挑戦した。使い捨ての一日タイプ。二週間のものより割高だけど、最初のうちは短い日数の方が安心ですよってお店で説明された。使い捨てのコンタクトは想像していたよりも大きくて、こんなの自分の目に入れるんだと思うとさすがに怖かった。でもお店で着脱の練習して、一人で入れることが出来るようになったのはそれから二十分後。あれって思ったときには入っていた。

 最初は短い時間で外すようにって言われていて、そうやって土日で徐々に慣らしていって、本日月曜日が私の本格的コンタクトデビューの日。

 鏡の中、私の口元がふくふくと動き、にんまりとした笑みに代わる。メガネの無い自分の顔に戸惑いを感じているけれど、このメガネ無しの状態が本来の私の顔なんだ。

「行ってきまーす」

 普段は口の中でしか言わない挨拶も、今朝は大きな声で宣言するように言っていた。

 学校に着くと、なんでもないようないつもの表情で教室に入る。中学生の時まではメガネ派が主流だったけれど、高校に入った途端、みんなコンタクトに替わっていった。アレルギーだとか、挑戦したけどダメだったって子以外で、なんとなくメガネだったのは私くらい。自分にとっては大きな一歩だけれど、他の人から見るとどうなんだろう。

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