天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
「いや、ともかくだ。俺は物心ついたときからものすごくモテる」

 壱生以外の人間が口にしたら、確実に反感を買うセリフだ。

「だがそれは俺の望んだことじゃない。防ごうと思っても防げずにトラブルになることも多い。モテるせいでいいことよりも悪いことの方が圧倒的に多いんだ」

「……私とはまったく逆の人生」

 ここまで両極端なふたりも珍しいのではないかと思う。

「そこで俺は考えた。この状況から抜け出す一番の方法は結婚することなんだ。そうすればすべて解決する」

「その解決法はいかがかと思いますが」

「この天才の俺の頭脳をもってしても、他の考えが思いつかなかったんだ。だから諦めて協力してくれ」

 突拍子もないことなのに、さも当たり前のことのように言われて言い返すことができない。

「それにお父さんも心配していたぞ。君が結婚しないんじゃないかって。親を安心させてやるのも親孝行だろ?」

 両親の話をされるとつらい。今までずっと純菜に彼氏のひとりもできなかったことを心配していたのを知っているから余計だ。

 そもそもこのやり手弁護士とやり合うなんて最初から勝負が見えているようなものだ。

「昨日何でもするって言ったのは嘘なのか? 俺がこんなに困っているのに」

 壱生の弱弱しい声を初めて聴いた。目を伏せた彼の様子から本当に考えつくした意見なのだと理解した。

 仕事でもプライベートでも助けてもらった。昨日のことは彼がいなければ今こんな風に落ち着いていられないほどのことだ。

 帰宅時に壱生が待ち伏せしている男に気が付いていなかったら、今どうなっていたのかと思うと震えた。

「私で役に立ちますか?」

 詰め寄られてこれ以上は抵抗できないと思った。

「当たり前だろう。君にしか頼めない」

「わかりました。でも条件が――きゃぁ」

 いきなり伸びてきた壱生の手が純菜を抱きしめた。

「ありがとう! こちらこそ、よろしく」

 さっきまで私に詰め寄っていた厳しい顔とは打って変わって、きらめくような笑顔を浮かべた壱生の顔が間近にある。

「ちょっと落ち着いて、離れてください」

 いきなり抱きしめられて心臓がひっくり返りそうだ。こんなときほど冷静にならなくてはいけない。
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