天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 ベッドを下りるとクッションの上で寝ていたピッピが足元に来た。

「おはよう。まだ鮫島先生がお休みだから、もう少し静かにしていようね」

 話しかけるとピッピは首を傾げた。

「かわいいな。もう」

 朝から癒されて微笑みながら着替えを済ませた。エプロンを付けるとピッピと一緒にキッチンに向かう。

 冷蔵庫の中から材料を取り出していると、ピッピはどこからか持ってきたおもちゃで遊び始めた。

 今のうちに準備しちゃおう。

 お鍋に湯を沸かし出汁を取る。ボウルに卵を割り白出汁を加えて卵焼きの用意をする。余っていたねぎを足して温めた卵焼き器にゆっくりと卵液を流し込み成形していく。

 ワカメを戻しつつ豆腐の用意をする。寝る前にセットしてあったご飯はおにぎりにするため少し冷ます。その間に沸騰しただし汁に具を入れて煮込み、卵焼きを作ったフライパンでウィンナーを炒めた。

 絵にかいたような朝ごはんが食卓に並ぶ。作り終わってからもう少し手の込んだものを作ればよかったかと思ったが、変に張り切って見えるのも恥ずかしい。

 ふと朝食ひとつで壱生がどんな反応をするのかと色々考えている自分に気が付く。

 壱生を意識している。

 その事実に恥ずかしくなるが、結婚すると決めたのだから意識しない方がおかしいと自分を正当化した。

「いい匂いだな。おはよう」

 Tシャツにスウェット、少し乱れた髪の壱生の姿。

一緒に住み始めて何度か目にしているが、まだ慣れない。無防備な彼の姿を見ると共に生活しているということを突き付けられてドキドキしてしまう。

 この二週間は、純菜にとって落ち着かないことの連続だ。それでもこの生活を受け入れると言ったのだから慣れていかなくてはならない。

 日々これが正解なのかと思っていてもだ。

「おはようございます。鮫島先生のもありますけど召し上がりますか?」

「え、いいのか?」

 壱生の顔がぱぁと明るくなった。

「え、はい。特別珍しいものはありませんが」

 思いのほか反応が良くて驚いた。

「まともな朝飯食えるなんて久しぶりだ」

「大袈裟ですよ。座ってください」

 純菜は木製のトレーに、作ったものを並べてテーブルに置いた。壱生はすぐに手をあわせて食べ始める。

「うまいよ。ありがとう」

 味噌汁を一口飲んだ彼の反応を見てほっとする。

「よかった」
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