天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 次いでピッピのごはんを用意しようとフードの袋を開けると、それまでおもちゃで遊んでいたピッピが走って駆け寄って来た。純菜の足元まで来るとくるくると嬉しそうに回っている。

「ちょっと待ってね。準備するね」

 純菜の言葉にちょこんとお座りをして待つ。

「ピッピは本当にお利口だね」 

 この二週間でだいぶんアイコンタクトができるようになった。お座りと待てはすぐにできるようになった。

「すごいな。ちょっと俺もやってみたい」

 箸を置いた壱生が立ち上がった。

「じゃあ、ごはんをあげてください。まずはこうやって目を合わせて」

 純菜と同じように壱生がすると、ピッピが彼の方を向いた。

「それでいいです。次に「待て」をさせてから、お皿を置きます。その後、ヨシと言ってください」

「待て」

 ピッピがエサをみつめたままだが、じっと待っている。時々出るピンクの舌がすごくかわいい。

「ヨシ」

 壱生の合図で、エサを食べ始めた。

「おお! すごいな」

 いつもピッピにはやられっぱなしの壱生だったが、このように意志の疎通ができたことを喜んでいる。

 満面の笑みを浮かべて、ごはんを食べているピッピの頭を優しく撫でた。

「もっと仲良くなれますよ。お互い好き同志ですから」

「それって俺たちにも当てはまる?」

「えっ」

 ふいに問われて固まってしまった。

「さっき純菜が言ったのって、俺たちの関係にも当てはまるのかって聞いたんだけど」

「それは――条件が当てはまれば」

 純菜はうまくごまかせただろうかと壱生の方を見る。

「なるほどな。貴重な意見だ」

 彼も追及することはせずに、食事の席に戻った。純菜も向かいに座って食事を始める。

「二時に約束してるから」

「わかりました」

「今日である程度片付く予定だ」

「すごい……早い」

 法律関係の書類は手続きが煩雑で時間がかかることも多い。しかし今回の話は壱生があっという間に手続きをすませてくれたようだ。

「ありがとうございます」

「そんなに感謝しなくていい。俺は報酬に君自身をもらうんだからな」

 直接的な表現に戸惑う。

「なんか他にいい方ってもんがあるんじゃないですか?」

「遠まわしに言うと、君は全く理解しないじゃないか」

 確かにこの手のことに関して純菜が鈍い自覚はある。

「それはそうですけど!」
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