天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
「それが……向こうからは話題にも出なかった。俺がピッピの様子を説明したが適当に流して聞いているようだったな」

「そんな……」

 もし自分のペットをやむを得ない状況で誰かに預けるとなると、様子が気になるものだと思っていた。なんだかピッピがかわいそうに思えてきた。

 目を伏せて、腕の中にいるピッピをしっかりと撫でた。

「さぁ、行くぞ」

 先に歩き始めた壱生の後を純菜とピッピがおいかけた。

「ただいま~」

 実家の玄関で声を出すと、純菜の母親が忙しない様子で出てきた。

「おかえりなさい。それと鮫島先生ですよね。はじめまして」

「お邪魔いたします」 

 壱生が丁寧に頭を下げた。


「この度は、お世話になります。どうぞ」

 リビングに向かって廊下を歩く。自分がいたときとそれほど変わらない様子にほっとする。母親がお茶の用意をしに行ったので、純菜がリビングに案内した。

「鮫島先生、こちらに――」

 壱生の顔を見ると不満げだ。

「鮫島先生じゃないだろ。呼び方間違えてる」

「あの、でも」

 ジロリとみられて「壱生さん」と呼び直すとやっと納得してソファに腰かけた。

 それと同時に母親がお茶を持ってリビングにやってきた。

「主人は急患の対応をしていて、もうすぐ来ると思うんだけど、あ。来た」


「すまない、お待たせしました」

 スクラブを着たままで現れた。半年前に会ったときより白髪が増えてた気がする。心労がたったのではないかと心配する。

 純菜の父、矢吹宗則(むねのり)は、二十年以上前にこの地に動物病院を開設して以来ずっと地域の動物たちの幸せを祈って仕事をしてきた。

 それと同時に保健所に収容されたり、繁殖をリタイアした犬猫を預かり新しい飼い主につなぐボランティア活動をしていた。

 純菜も小さな頃から動物たちの世話をして過ごす時間が長かった。それは彼女にとっても癒しであり大切な時間だったのだ。

 しかし年月が経つにつれ施設の老朽化が進んだうえに、受け入れする犬猫が増えた。

 私財を投げ出すにも限界があり今回銀行以外の融資に手を出したといいのが経緯だったようだ。

「そんなにお金がなかったなんて……」

 膝の上でおとなしくしていたピッピを抱きしめて、悲しい気持ちを紛らわせた。

「純菜はピッピと他の子たちをドッグランで遊ばせてきてくれ」

「え、でも」
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