天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
「まあ、他の男が見れない顔を知ってるからな、俺は」

「それってどんな顔のこと言ってますか?」

 そんな変な顔を彼の前でしたつもりはないのだけれど、ふと気が抜けたときに見られていたのだろうか。

「想像したら、見たくなった」

 その瞬間壱生の目に、熱がこもった。近づいてきた唇がすぐに純菜の唇に重なる。角度を変えて何度も重なる唇。

「ただいま」

 唇の振れる距離で囁いた壱生。

 純菜は言葉ではなく、彼の首に腕を回してキスで答えた。

「おかえりなさい」と。



 日が落ちかけて、街灯がちらほらとつき始める時間。

 純菜は壱生と共にクライアント先から事務所に向かっていた。

「悪かったな、遅くなって」

「いえ、色々勉強になりましたし、私がやりとりすることも多いので顔をあせていると今後やり取りがしやすいですから」

「そう言ってくれると助かる」

 途中で小学校低学年くらいの男の子が走ってふたりを追い抜いた。

「お父さん、早く!」

「わかったから。そんなに急がなくてもお祭りは始まったばかりだろ。止って待ちなさい」

 後から父親らしき人が負いかけながら待つように言うが、少年は我慢ができないみたいであ走っていく。

「この先に神社があるんでしょうか?」

「今日は二十五日か、天神さんの日だな」

 神社に向かっていく親子を見ていると壱生がそちらの方向に歩き出した。

「鮫島先生? どこに行くんですか?」

 急いで後をついていく。

「ん? 俺たちも行かないか? お祭り」

「いいんですか?」

 終業時刻はすぎているとはいえ、まだ勤務中だ。

「今から休憩時間な。法律で認められてる。だから気にするな」

「でも……お祭りなんて」

 なんとなく普通の休憩とは違って罪悪感がある。

「嫌いか?」

「好きです」

 小さな頃はさっきの小学生のようにすごく楽しみにしていたのに、大人になってからはほとんど行く機会がなかった。

「だったらいいだろ。約束もルールも破るためにあるんだから」

 笑いながら歩く壱生の後をついて歩く純菜の足取りが少しだけ軽くなった。

 神社に到着して、まずはお参りをしようとまずは境内を目指す。

 平日だというのに家族連れや、友達同士、はたまたカップルたちでごった返していた。

「すごい人だな」

「えぇ。はぐれちゃいそうですね」
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